• 時の崖

[TEXT] エンカウントハーシュノイズ

更新日:5月19日

で公開していると聞いて、豊島園に初めて行った。時計は21時を回ろうとしている。閉鎖された遊園地の街はどこかディストピアのような空気があった。映画はここ数日NETFLIXで繰り返し観ていて、ちょうど良いタイミングで限定上映されていた。普段メディアにしっかり目を通しているわけではないのだがこういう"タイミングの良い"ことがままある。過去一番に良い環境で改めて映画を観たあと、不思議な高揚感を感じながら大江戸線の終電で帰ることになった。ひたすら地下へと潜る大江戸線に乗るのは久しぶりだった。まばらになった乗客と共に電子小説を読んでいると、突如シャーーー!!!という轟音が鳴り響き始めた。何事かと思ってびっくりしていると、周りもしかめっ面をしながら耐えている。表情から察するに毎度のことなのだろう。その轟音のノイズは1分ほど鳴り響いた。なぜかその音が気になり、煩いけれども不思議と魅力を感じるこのノイズには必ず名前があるはずだと思い、まず「スラッシュノイズ」で調べた。だがスラッシュメタルの話題しかヒットせず、他に思い当たる語源は無いかと考えあぐねた。鉄道オタクの人が動画をあげてる可能性も考えたが、音の種類とは違う観点だろう。専門家に尋ねるのが早いと思い、ノイズ音楽に詳しい知人にメッセージを送った。「シャーーーー!!!という轟音」と説明するとすぐに「うちらがハーシュノイズって呼んでる音に近いんだろうなって感じする」と返事があった。調べてみると気になった音と見事に一致した。感動をし感謝を伝えた。名前があること、未知の歴史に触れることが出来たことを嬉しく感じていると「スキですか?ハーシュノイズ」と聞かれた。スキか、と考えると正直よく分からなかった。インターステラーを観る前にノイズミュージックのプレイリストを聴きながら作業していたが、とても作業に集中することが出来て「魅力的で、ありがたい音楽のジャンルだ」とは思っていた。が、それ以上に踏み込んだ感想はいまのところ持てていない。ただ思い当たるとすればAphex Twinだ。Aphex Twinのライブでの爆音のノイズを思い出したのだ。Aphex Twinはどういう時期で知ったのか定かではないが、もともとエレクトロニカが好きでプレイリストを漁っていた。いつの間にか有名どころなことは感知していて、変なPVを観るのも好きだったので強烈な印象は持っていた。

その距離がグッと近くなったのはimoutoidを好きになったときだった。4という曲によって自分のなかでAphex Twinがどういう存在なのかハッキリと認識出来るようになった。それから数年が経ち、以前にも増し荒涼としていた時期にふと「フジロックに行こう!」と思い立った。定期的にライブやフェスに足を運んでいたが、泊まりがけの大型フェスははじめての試みだった。何人か友人に声をかけてみたものの良い返事は貰えず、一人で行った。目的はたくさんあった。その中でもやはりヘッドライナーのAphex TwinとBjörkが放っていた存在感は強烈だった。Aphex Twinが始まる頃には空は暗くどんよりとしていて、雨が降っていた。最前列に近い場所で椅子に座り開演を待っていたところ、海外から来た観客にかごめかごめの要領で取り囲まれ笑われた。観客の持つ空気感が狂気に近くなっていたように感じた。爆音のノイズと、寒色のレーザーと共にプレイが始まった。VJはARの技術を用いて、観客や有名人の顔を全てSyroのアートワークに変化させていくものだった。安倍総理も松居一代も親指タイタニックを切り貼りしたような顔になっていく。笑いの渦が起き、どんどんと会場はカオスになっていた。ラスト15分、音圧が半端ないことになっていった。轟音というより重力を浴びせられているような感じだった。BLEACHでいう霊圧のような、身動きが取れないほどの音圧。リタイアしてしまう観客もいた。心地よいというものではない。暴力に近いような轟音のノイズを必死に耐えた。ライブでの音圧を感じる体験は基本的に楽しい。あまりの爆音に耳鳴りがするのも、鼓動のように感じるウーハーも楽しい。踊り、叫び、全身で音を楽しむ。

凄まじさを体感的に浴び続けるというのは、ひたすらに忍耐だと思った。頭はボーっとしくるが音がそれを許さない。身体中を圧迫して追従してくる。

痛みのない拷問の15分だった。終わった瞬間は正直ほっとした。そして同時にとてつもない体験が出来たという満足感があった。

帰り際に得意気に「Aphex Twinはメンヘラの聴く音楽だわw」と同行者の女性に言っている男がいた。完全に不快な気持ちになり、いますぐこいつを排除しろ!と暴れ出したくなった。

だがその言葉に間違いはない、とも思った。楽しくないことを楽しむ、それを考え続けることが本質に繋がるかもしれないと思った。

様々なことが繋がり、ただの騒音が魅力的なノイズに変わった。

台風のときの音が好きだ。暴風域に入れば家は揺れ続け、雨風の音と何かが飛んでいく音を遠くに聴きながら寝る。

この気持ちは哀愁の一つな

Rik

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