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 本作は、湖に関するドキュメンタリーの架空のサウンドトラックとして制作されたという。各曲には日本語のタイトルが付されており、ドキュメンタリーの様々なシーンに対応している(何故か楽曲はscene-08から始まり、scene01-07は失われている!)。

 

 サウンドソースとしては、"Ultimate_Collection hydrocycle on a lake"の収録曲"by the lake in the early morning"(https://tokinogake.bandcamp.com/track/by-the-lake-in-the-early-morning)と同様、架空の音響合成方式"Hydrocycle Synthesis"が用いられている。

 

 

 "Hydrocycle Synthesis"(以下、HC合成)は、FM(frequency modulation)合成を応用した独自の音響合成方式である。複数のFMオペレーターを組み合わせ(HC合成のオシレーターひとつにつき、30ものFMオペレーターが用いられている!)、更にランダムネスを加えることで、複雑な揺らぎをもつ音響を得ている。

 

FM合成を、数式で表現すると、次のように記述される。Aはキャリアの振幅、Cはキャリア周波数、Mはモジュレーター周波数である。

 

 f(t) = A sin(2πCt + D sin(2πM t)

 

 一方、HC合成は、以下の数式で記述される。周波数にランダムネスが取り入れられていることが分かる。

 

 hydro(t,n) = sin(t^2/50*pi*rand~)*a+sin(t^2/50*pi*rand~)*a^n+sin(t^2/50*pi*rand~)*a^(n+1)...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 HC合成のMaxパッチは、通常の音響合成方式と異なる独自のパラメータを持っている。"speed"はキャリア周波数、"reflect"はモジュレーターとキャリアの周波数比(harmonicity ratio)、"beam"は変調指数(modulation index)に近いが、内部にランダムネスが取り入れられている。"height"は、HC合成のレベルをコントロールし、depthは、ごく短いディレイを重ねて付加することで、響きに更なる揺らぎを加えている。

 

 "speed"、"reflect"、"beam"が小さい値では、澄んだ音色の穏やかなドローンが得られるが、それぞれの値を大きくしていくと、カオティックなノイズが得られる。前者はscene-20、後者はscene-14などで聴くことができる。

 

 また、エフェクト部は、sin波、cos波を組み合わせ、寄せては返す波のようなLFOを実現しており、scene-11、scene-18で聴かれる海鳴りのような低音や、scene-12、scene-15で聴かれる間歇的なノイズのリズムは、このLFOの効果によるものと思われる。

 

 "scene wa kawaru kamo shirenai ga, mizuumi kara tohku e iku koto wa nai. kaze ga fuite iru"は、FM合成を応用した"Hydrocycle Synthesis"という独自の音響合成方式により得られる、複雑な揺らぎを持った音響を構成することで、湖畔の生態系が発する密やかなノイズを、顕微鏡で拡大してみせたような作品である。

 

 

 湖は、自然の景観を飾る、最も美しく、意味深い造作です。

 湖は大地の目です。

 人は湖を覗いて、自分の本性の深みを探ります。 

 

H.D. ソロー「ウォールデン 森の生活」

 

 

※参考文献

・カーティス・ローズ『コンピュータ音楽 - 歴史・テクノロジー・アート』青柳 龍也・小坂 直敏・平田 圭二・堀内 靖雄訳

・H.D. ソロー『ウォールデン 森の生活』今泉 吉晴訳


text by nankotsuteacher















 

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